子どもに交渉を教えると、ずるい子になりませんか
結論から書きます。なりません。
むしろ逆で、ずるくなるのは、交渉を教えなかったときだと思っています。理由を下に書きます。
小学生2人を育てながら、子ども向けのアプリを作っています。「子どもが親に交渉する」という作りなので、この質問は何度も受けました。真正面から答えます。
「ずるい子になる」と言われるとき、想像されているもの
心配されているのは、たいていこの3つです。
- 言いくるめる子になるのではないか
- 屁理屈がうまくなるだけではないか
- 何でも条件をつけてくる子になるのではないか
どれも、分かります。実際、教え方を間違えるとそうなります。
ただ、それは交渉を教えたからではなく、「通し方」だけを教えたときに起きます。
交渉と「ごね得」は、別のものです
ここを分けておかないと、話が噛み合いません。
| ごね得 | 交渉 | |
|---|---|---|
| 相手の利益 | 考えない | 先に考える |
| 通る理由 | 相手が折れたから | 中身が良かったから |
| 通らなかったとき | もう一度ごねる | 案を作り直す |
| 使う道具 | 感情・しつこさ・タイミング | 事実・理由・対価 |
ごね得は、相手が疲れることで成立します。 交渉は、相手にも得があることで成立します。
子どもが自然に覚えるのは、ごね得のほうです。 教えなくても身につきます。効くからです。
交渉を教えないと、何が残るか
教えなければ、要求がなくなるわけではありません。形が変わるだけです。
- ごねる。 大きい声、長い時間、人目のある場所
- 隠す。 言っても通らないと分かると、言わずにやる
- 親の機嫌を読む。 中身ではなく、タイミングで勝とうとする
3つ目が、いちばん根が深いところです。答えがその日によって変わる家では、子どもは中身を磨く意味がありません。 タイミングを読むほうが合理的だからです。
これが「ずるい」の正体だと思っています。交渉を教えると生まれるのではなく、交渉が成立しない家で育ちます。
断り方の一貫性については、こちらに書きました。
ずるくならないための 3つの条件
交渉を教えるなら、この3つは外さないほうがいいと思っています。
① 相手の利益を言わせる
「自分がどう得するか」だけの提案は、通さない。「相手に何が返るか」を必ず入れさせます。
これが入ると、提案は自動的に「言いくるめ」から遠くなります。相手を見ないと書けないからです。
② 通らない経験を残す
全部通したら、それは交渉ではなくおねだりです。
通らない回があるから、通った回に意味が出ます。そして、断られた理由を聞いて作り直すという、いちばん難しい動作が練習できます。
断るときは、理由を言ってください。理由のない「だめ」は、交渉の練習になりません。
③ 事実と意見を分けさせる
「すごく欲しい」は意見です。「今持っているものが壊れていて使えない」は事実です。
事実で話す癖がつくと、屁理屈にはなりません。 屁理屈は、事実が足りないところを言葉で埋めようとしたときに出ます。
「屁理屈がうまくなっただけでは?」への答え
正直に言うと、最初は屁理屈が増えます。 うちでもそうでした。
ただ、屁理屈は事実を確かめると止まります。 一つ確かめればいい。
「今きつくないよね?」
「それ、先月も言ってたよね?」
論破するためではありません。 事実を一つ置くだけです。屁理屈は、事実の上では立てません。
だから、屁理屈が出てきたら、交渉が失敗しているのではなく、まだ事実が足りていないというだけだと思っています。
親の側が気をつけること
教える側が壊してしまうことがあります。2つあります。
① 論破の場にしない。
子どもの提案に穴を見つけて、全部指摘したくなります。やると、次から提案を持ってきません。 穴は、通すか通さないかに関わるものだけ指摘すれば足ります。
② 親も理由を言う。
「だめ」とだけ返すと、子どもは理由なしで通す方法を探し始めます。ごね得を教えているのは、そのときの親のほうです。
親の理由は、立派でなくて構いません。「この金額は、いまの家の予定に入っていない」で十分です。主語が自分になっていれば足ります。
うちの場合
私が作っているアプリは、子どもが欲しいものを親に提案する仕組みです。コインを貯めて、提案する権利を買って、理由と対価を用意して発表します。
ずるくならないように、作るときに決めたことが3つあります。
① 提案を作っている途中で、案内役が親の反論を先に出します。
「おうちの人は こう言うかも:」
「その値段はうちには高いよ」「先月も同じことを言っていたよね」。本番の前に、反対意見をもらえるようにしました。 相手の側から自分の案を見る練習です。
② 親の返事を4つにしました。
承認、逆提案(条件を変えて返す)、考え直し、見送り。「通る/通らない」の2択にしていません。 条件を変えて返されたら、受けるか練り直すかを子どもが選びます。
③ 全部は通りません。
見送りもあります。そして、見送られたあとすぐには出し直せません。 画面にはこう出ます。
「見送りから 3日は あけてね。少し 考え直してから もう一度」
連打で通す道を、わざと塞いであります。 ここを開けておくと、しつこさが戦略になってしまうからです。
通らない提案があるから、通った提案に意味があります。 全部通る仕組みは、交渉の練習になりません。
「みんな持ってる」を理由にできないようにした話は、こちらに書きました。
まとめ
- 交渉を教えてもずるくならない。 ずるくなるのは、交渉が成立しない家
- ごね得は教えなくても身につく。 効くから
- 交渉を教えないと残るのは、ごねる・隠す・親の機嫌を読む
- 3つ外さない。 相手の利益を言わせる/通らない経験を残す/事実と意見を分ける
- 屁理屈は事実を一つ確かめると止まる。 論破しなくていい
- 親も理由を言う。 理由のない「だめ」が、ごね得を育てる
交渉を教えるのは、要求を通す力をつけるためではありません。要求を言葉にして、相手に届く形にする力をつけるためです。そこが抜けると、たしかにずるい子になります。
