子どもに「高い」「安い」をどう教えるか
結論から書きます。「高い」「安い」は、金額では教えられません。 比べる相手を作ると、教えられます。
いちばん効くのは、値段を時間に変えることです。やり方は下に書きました。
小学生2人を育てながら、子ども向けのアプリを作っています。うちの子に実際に効いたやりとりも、最後に載せました。
「32,000円は高い」が、なぜ伝わらないのか
子どもに金額を見せても、ほとんど何も起きません。比べる相手を持っていないからです。
32,000円が高いのか安いのか。大人は、自分の給料や家賃や、先月払った額と比べて判断しています。その比べる相手が、子どもには一つもありません。
だから「高いでしょ」と言っても、伝わるのは「お父さんが嫌がっている」という情報だけです。値段の話にはなっていません。
やることは、金額を説明することではなく、比べる相手を用意することです。
使わないほうがいい教え方 3つ
「高いからダメ」
値段を、断る道具として使っています。 これを続けると、子どもは「高い」を「親が嫌がる言葉」として覚えます。金額の大小ではなく、親の反応で判断するようになります。
「うちにはそんなお金はない」
家計の不安を子どもに渡すことになります。 そして、旅行に行った日や外食した日に矛盾が見つかります。「あるときは買ってくれる」と理解されると、次は「お金があるとき」を狙われます。
「◯◯ちゃんの家は特別だから」
他の家と比べると、値段ではなく家の格の話になります。学べるものがありません。
比べる相手の作り方 3つ
① 時間に変える(いちばん効きます)
値段を、大人が働く時間に換算します。
その金額 ÷ 1時間あたりの稼ぎ = 何時間働くか
1時間あたりの金額は、ざっくりでかまいません。 手取りの月収を、その月に働いた時間でおおよそ割るだけです。子どもに正確な給料を教える必要はありません。 「だいたいこのくらい」で十分に機能します。
時間に変えると、子どもは比べられるようになります。1日は24時間。学校は6時間くらい。1週間は7日。 どれも体で知っている単位です。
さらに1日分の労働時間(8時間など)で割ると、「何日働く分か」になります。ここまで来ると、たいていの子は自分で計算を始めます。
② 自分が持っているもので測る
お小遣い何か月分か。 これは低学年にも効きます。月500円もらっている子にとって、5,000円は10か月です。自分の時間の長さに変換されます。
好きなものの個数でもかまいません。 ジュース何本分、お菓子何袋分。金額より個数のほうが、小さい子には早く届きます。
③ 同じ目的の、別の手段と並べる
「楽しい一日を過ごす」という同じ目的に、いくらの選択肢があるかを並べます。
- テーマパークに1回行く
- 近所のプールに10回行く
- 家でやりたいことを一日やる
どれが正しいかは言いません。 並べるだけで、「同じ目的に値段の幅がある」ことが伝わります。これが分かると、値段は「払えるか」ではなく「見合うか」の話になります。
学年ごとの目安
わり算を習うのは小学3年です。 ここを境に、使える道具が変わります。
| 効きやすい比べ方 | |
|---|---|
| 小1〜小2 | 個数。 ジュース何本分、お菓子何袋分。わり算を使わずに済む形にする |
| 小3〜小4 | 時間。 「大人が何時間・何日働く分か」。自分で割り算ができるようになる |
| 小5〜小6 | 月単位・比較。 月にいくら使えるか、同じ目的の別案といくら違うか |
年齢は目安です。その子が自分で計算できる範囲に合わせるのが基準で、学年そのものではありません。
親が言わないほうがいいこと
ここが、いちばん差が出るところです。
結論を言わないでください。
「だから高いんだよ」「買えないよ」と最後に付け足した瞬間に、それは親の意見になります。 子どもは意見には反論できますし、反論できない場合はただ黙ります。どちらも学びになりません。
代わりにやるのは、聞き返すことです。
「大人は1日だいたい8時間働くけど、それ何日分だと思う?」
「お小遣い何か月分になる?」
「同じくらい楽しいことで、もっと安いのってあるかな?」
事実だけを渡して、計算は本人にさせます。 言われた結論は忘れますが、自分で出した結論は忘れません。
「安い」のほうが、実はむずかしい
「高い」は数字で説明できますが、「安い」は理由を考えないと分かりません。
安いものには、たいてい理由があります。
- たくさん作っているから
- 古いから、流行が終わったから
- 誰かが、どこかで安く働いているから
三つ目まで行くのは高学年からで十分です。ただ、「安い=お得」で止めないほうがいいとは思っています。安さの理由を考える癖は、そのまま「このうまい話はなぜうまいのか」を考える力になります。
小さいうちは、ここまでで足ります。
「どうしてこっちのほうが安いんだろうね?」
答えを出さなくてかまいません。問いの形を覚えてもらうのが目的です。
うちの場合
私が作っているアプリには、欲しいものの値段を大人の労働時間に換算して出す仕組みを入れています。
上の子(小3)が、目標に「テーマパークに行きたい」を入れました。家族4人で32,000円。画面に、労働時間の目安が出ます。
見た瞬間に、こう言いました。
「え、こんなに働かないといけないの?」
「大人って1日何時間働くの?」
私が答えたのは「平均8時間」だけです。そのあとは本人が計算しました。
「3日くらいか!」
「一ヶ月に何日働くの?」——「だいたい22日くらいかな」
「そうすると、一ヶ月に何回もは行けないんだね」
私は一度も「高い」と言っていません。 事実を二つ渡しただけです。
最後に「旅行はどうなんだろ?」と聞かれました。ここでも答えませんでした。「価格表とかで出てくるから、いろいろ見て考えてみて」とだけ言いました。
ひとつだけ、気をつけること
値段が分かるようになると、要求が小さくなることがあります。
これは、いいことばかりではありません。いちばん避けたいのは、欲しいものを言ってこなくなることだからです。言ってこなければ、こちらは何も答えられません。断ることすらできなくなります。
値段を見せるのは、本人が自分で値段を測れるようにするためであって、要求を引っ込めさせるためではありません。ここを間違えると、逆のものになります。
だから、値段を伝えたあとは、道を閉じないでください。
「高いね。じゃあ、どうやったら行けると思う?」
断り方そのものについては、こちらに書きました。
お小遣いの金額の決め方は、こちらです。
まとめ
- 金額だけでは伝わらない。 子どもは比べる相手を持っていない
- 「高いからダメ」「うちにはお金がない」「よその家は特別」は使わない
- いちばん効くのは時間に変えること。 金額 ÷ 1時間あたりの稼ぎ。ざっくりでいい
- 低学年は個数、小3からは時間、高学年は月単位と比較
- 結論を言わない。事実だけ渡して、計算は本人にさせる
- 「安い」は理由を考える練習。「どうしてこっちは安いんだろうね?」
- 値段を伝えたあと、道を閉じない。「どうやったら行けると思う?」
値段を教える場面で親がやることは、値段を言うことではありません。 測り方を渡して、あとは黙っていることのほうだと思っています。
